心臓血管外科
Cardiovascular surgery弁膜症疾患
心臓には4つの弁が存在し、血流を全身に送りだすために常に働いています。しかし、その機能が低下すると狭く(狭窄症)なったり、閉じにくく(閉鎖不全症)なったりすることがあります。
主な病名としては、次のようなものがあります。
大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症
三尖弁閉鎖不全症
感染性心内膜炎(細菌感染による弁機能不全)
手術法としては、弁形成術と弁置換術があります。弁形成術は、弁の組織を温存しながら弁機能を改善させる方法です。弁置換術は弁を切除して、人工弁に取り替える方法です。
また、人工弁には生体弁と機械弁の2種類があります。若年の方には耐久性の良い機械弁を選択しますが、生涯にわたりワーファリンという抗凝固薬を内服する必要があり、定期的な血液検査で服薬量を調整しなければなりません。生体弁はウシやブタの組織を用いた人工弁で、ワーファリンの服用は必要ありませんが、10~20年ほどで劣化しやすいといわれています。
もし生体弁が経年劣化しても、経カテーテル的大動脈弁置換術によって人工弁を生体弁の内側に入れる治療(開胸せずに手術可能)が選択できるようになったため、最近では生体弁の使用率がさらに高くなってきています。また、人工弁の周りに縫合する糸が不要なスーチャーレス弁も登場し、手術時間が短縮できる可能性があります。
低侵襲心臓外科手術(MICS手術)
通常の心臓手術では、胸の真ん中を縦に20~25cmの皮膚切開し、胸骨を切開します。当院では、肋骨の間を小切開する方法(Minimally Invasive Cardiac Surgery: MICS手術)で弁膜症の手術を行なっております。6-8cm程度の創部で手術が可能であり、胸骨を切開しないことで出血量も少なく、術後の回復も早くなります。
最新の内視鏡システムを導入
当院のMICS手術は、KARL STORZ社の3D内視鏡と4Kモニターを用いて行なっており、より鮮明で緻密な画像を見ながら正確な手術を実践しています。
冠動脈疾患
心臓の筋肉である心筋は、冠状動脈という血管からの血液で栄養されています。この冠状動脈が狭くなったり、詰まったりしておこる病気が、狭心症や心筋梗塞です。現在の治療方針では、循環器内科医によるカテーテル治療が第一選択となることが多いのですが、治療部位や病変の性質によっては、外科的な治療(冠動脈バイパス術)が有効であることもあります。
当施設では、循環器内科医と連携して冠動脈疾患の治療にあたっており、カテーテル治療に不向きな病変をお持ちの患者様に対して、冠動脈バイパス手術(CABG)を行なっております。手術では、患者様自身の動脈や静脈(自家グラフト)を用いて、冠動脈に血流を増やすことができます。我々は症例に応じたグラフト選択(内胸動脈、大伏在静脈、橈骨動脈など)を行って完全な血行再建を目指します。手術の方法としては、人工心肺装置を用いずに心拍動下で行うオフポンプCABGも積極的に行っています。
冠動脈バイパス手術後のCT画像(両側の内胸動脈と橈骨動脈を使用)
大動脈疾患
大動脈とは、心臓から直接出る一番太い動脈であり、全身の臓器に血液を送り出す通路となっています。しかし、動脈硬化によって動脈が異常に大きくなる状態が大動脈瘤です。大きさが大きくなり過ぎると破れたり(破裂)、割れたり(解離)するリスクが高くなります。
初期症状は出にくいため、他の疾患の検査(CTなど)で偶然見つかることが多いのですが、見つからず突然に破裂や解離を起こすと、命に関わる状態になりかねません。そのため、ある一定以上の大きさになった大動脈瘤は、予防的に治療する必要があります。
治療法としては、開胸して大動脈瘤を切除し人工血管に取り替える方法(人工血管置換術)とバネ付きの人工血管であるステントグラフトを血管内に入れて内側から治療する方法(ステントグラフト内挿術)があります。ステントグラフト治療では創部が小さく、手術時間も短いため早期の回復が可能です。
急性大動脈解離や大動脈瘤破裂などの緊急手術の受け入れも随時行っております。
ステントグラフト内挿術(TEVAR, EVAR)の適応症例に対しては低侵襲手術を行います。
大動脈解離について
大動脈壁の構造は内側から、内膜、中膜、外膜の3層構造となっています。しかし、突然、中膜の一部から亀裂が入り、血液が隙間に入り込んでいくことで、本来の血管の中でない偽腔というスペースがどんどん広がってしまい、急激な血管の膨張により強烈な痛みを生じます。この状態が急性大動脈解離という病気です。
心臓に近い大動脈が解離を起こすと、非常に危険な状態となるため緊急手術で人工血管に取り替えるが必要があります。当院では、オープン型ステントグラフトを用いた人工血管置換術でより低侵襲な手術を行っています。
大動脈解離
大動脈解離のCT画像
不整脈手術
心臓は電気的信号が伝わって心房と心室の筋肉が連動し、効率よく血液を送り出しています。心房細動という不整脈になると、心房と心室がうまく連動せず心臓のポンプ機能が低下してしまいます。また、左心房内に血栓ができやすくなるため、血栓による塞栓症(脳梗塞など)のリスクが高くなります。
当科では、外科的にアブレーションを行うことで、他の手術と同時に不整脈に対する治療も行なっています。具体的には左心房や右心房に高周波や冷凍凝固という方法で焼灼を行い、筋肉や神経を変性させることで不整脈を起こしにくい状態にします。(メイズ手術)
また、左心耳という血栓の出来やすい部位を切除することで、塞栓症の予防を行なっています。
AtriCure社のサージカルアブレーションシステム