外科

Surgery

循環器疾患と消化器検査-胃カメラと大腸内視鏡検査

循環器の患者様に消化器の検査や治療をする場合、かなりの細かい配慮や丁寧な操作が大切になります。ちょっとした刺激で心室頻拍などの命にかかわる不整脈発作を起こす患者様や、狭心症や大動脈瘤の患者様に、胃内視鏡検査(胃カメラ)をすることを考えてみましょう。

胃カメラ時に 『えづき(嘔吐反射)』があると、不整脈の発生、狭心痛、血圧の上昇による動脈瘤の破裂などを心配しなければなりません。安全に胃内視鏡検査を行うために 『えづき』に対する工夫・対処が重要となります。

胃カメラと同様に、大腸カメラ(大腸内視鏡検査)でも、不快感や強い痛みを経験された方がおられると思います。これらは循環系に悪影響を及ぼす恐れがあるだけでなく、検査に対するトラウマや拒否につながります。そのため、当院では胃カメラや大腸内視鏡検査の際には苦痛や痛みができるだけないように対処しております。

なお、当院での年間の胃カメラの施行数は約350例、大腸内視鏡は100例前後です。

胃カメラがなぜ苦しいのか (実は苦しくない方もいます)

胃カメラが苦しかった方、あるいは胃カメラは苦しかったと聞いたことがある方は多いと思います。一方、胃カメラがほとんど苦しくない方もおられます。その違いの理由を説明し、当院で行っている『楽な胃カメラ』の方法を説明します。

喉(のど)の奥の構造(口腔から下咽頭)は非常に個人差があります。喉の奥の部分が狭く、曲がりが強い方は、どんなに上手な医師が行っても苦しいのです。喉が狭い方は、通常咽頭部分が非常に敏感です。

図6に喉の側面のシェーマを示し、図7には実際の喉のレントゲン像を示します。気管の上に気管の蓋となる喉頭蓋があり、気管の背中側に食道があります。図6のシェーマでは食道の入口は常に開いているように見えますが、実際には図7のレントゲン像のように食道の入口はきつくしまっています。緊張などで喉に力が入ると食道の入り口はもっと強く締まり、凹の形が凸の形となります(胃カメラはもっと入りにくくなります)。

胃カメラ(内視鏡)が喉の部分を通過する際には後壁部分に接触しながら入ってゆきます。喉の奥が狭いと、カメラが敏感な前壁に触れ、嘔吐反射『えづき』が出やすくなります。特に喉頭蓋は敏感です。また口を開けたままの状態はつらいものなのですが、さらにこの状態だと唾が増えてきます。喉にスプレーした麻酔薬のため、唾を飲み込もうとしても気管に入ってむせるため、口の傍からだらだらと唾を流し出さなければなりません。

精神的な緊張やイライラは喉をさらに敏感にし、喉に力が入り(食道入口部の筋肉を収縮させ)余計に胃カメラを入りにくくなります。

図8、図9は胃カメラ挿入時の二人の患者様の写真です。いずれも写真上側が体の正面方向で、写真下側が背中側(後壁)になります。写真は胃カメラの先端部分で撮影したと考えてください。図8は喉が狭いケースで、前壁と後壁の間隙が狭く、喉頭蓋が後壁に接しています。図9は、喉が広いケースで、前後壁の間に余裕があり、喉頭蓋と後壁が離れており、気管開口部(声帯)まで見えております(食道入口部はきちっと閉まっています)。

図8と図9の違いを見ると、喉の奥(咽頭)の広さに、個人差があるのがお分かりいただけると思います。図8のケースでは、内視鏡を前壁や喉頭蓋に接触しないように入れるのは不可能で、えづきが出ます。これが、『胃カメラは苦しい』、『胃カメラは苦しくない』の差となります。

図6

図7

図8

図9

楽な胃カメラ検査(苦しくない胃カメラ検査)

麻酔をかけてもらって胃カメラをしてもらったので楽だったと聞かれたことがあると思います。鎮静剤(眠り薬)を注射してから行う方法で、患者様にとってはありがたいことです。当院でも同種類の薬剤を用いることはありますが、それだけでは不十分と考えております。

喉が敏感な方の場合、『眠り薬』だけで検査を行うと、『えづき』があったけれども、寝ていたため患者様ご自身がえづいたことを覚えていないことが普通です。眠り薬のみの注射では、注射により理性が働きにくくなるためか、検査中に暴れる方がおられます(が、覚えておられないのがふつうです)。検査でパニックになられるケースでは、眠り薬だけでは、薬を相当量増量しても検査をするのは難しいと経験しています。

不整脈や狭心症を心配するケースや、血をサラサラにする薬のため喉から出血しやすい場合には、『えづき』があると危険で、眠り薬だけでは不十分と考えます。

当院ではオピスタン(塩酸ペチジン)という注射薬と眠り薬を併用しております。入院患者様は全例にオピスタンを使用しております。外来患者様では、出血や不整脈のリスクのある方、また希望される患者様にも使用しております。

オピスタンは嘔吐反射や不快感を抑える作用を持つ薬剤です。中毒性はないものの、最初の2,3分間少し呼吸をするのを忘れる方があるので(呼吸抑制)、そのことをきちんと説明し(前もって説明しておくのが大事)、きちんとモニターをつけて検査します。循環器の重症例の多い病院ですが、この方法で検査を行い、のどの出血、重篤な不整脈発作、心不全等の問題が起こったことはありません。胃カメラ検査がさほど苦痛でない方も、この楽な胃カメラ検査を経験すると、従来の方法より楽なのでこの方法の検査を希望されることが多いと思います。

オピスタンは処方に手間がかかること、使用したことのない薬は使いにくいことなどの理由が考えられますが、使いなれた内視鏡医がほとんどおられないのが実情です。当院に来られる非常勤の消化器内科の先生も、当院に来て初めてオピスタンを経験されるのですが、「思ったよりも安定した状態で検査ができ、検査する方も楽ですね」との意見を伺っております。なお、外来の患者様には薬の影響が取れ、十分覚醒されてから帰宅していただいております。

(車や自転車の運転は避けていただくようお願いしております)

血液をサラサラにする薬

循環器疾患の患者様の場合、血液をサラサラにする薬(すなわち、血を止まりにくくする薬、医学的には抗血栓薬と称します)を服用されている方が多く、これが内視鏡検査時に問題となります。抗血栓薬を服用している場合、えづきや内視鏡の手技による擦過(こすれ)で出血しやすいため注意しなければなりません。特に大腸内視鏡では、内視鏡を何回か腸の中で回転させるため、上部内視鏡以上に注意が必要となります。胃腸の生検検査(顕微鏡の検査を行なうため、組織を小さく摘み取る検査)によって、採取した部位からの出血が止まらなくなる可能性も考慮しなければなりません。もちろん血が止まらない場合、内視鏡を用いた止血手術を行うことになります。

抗血栓薬のなかでも、投与されることの多いアスピリンやその類似薬は、血管病変を改善させる効果が高く、心臓の血管をバルーンやステントで広げた後に投与が開始されるのが普通ですが、胃腸に潰瘍や炎症を来たし出血を起こすことがあり、このような場合には薬の中止・治療が必要となります。

実際の現場においては、血液をサラサラにする薬を開始したところ、胃や大腸からの出血や貧血が始まることがあります。そこで調べたところ、薬の投与前には無症状でわからなかった胃や大腸の癌や潰瘍といった病気が見つかることもあります。

内視鏡検査による出血が怖いからといって、血液サラサラの薬を早くから中止し、薬の効果が完全に切れてから検査をするのは望ましくありません。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を起こすかもしれないからです。そのあたりのさじ加減が難しく、患者様の病状を見て判断する必要があります。

血管や心臓に優しいお薬は、胃腸に優しくないわけです。循環器の疾患を抱えた方は、消化器内科医にはやっかいな患者様である訳です。

大腸内視鏡で痛い思いをされた方は多い

胃カメラ(胃内視鏡)は、朝食を抜くだけで胃は空になり検査ができます。えづき(嘔吐反射)が強い方でも眠り薬の注射なりをすれば、なんとか検査を遂行することができます。

大腸内視鏡の場合は、そう簡単にはいきません。まず、下剤を飲むなどの手間のかかる前処置が必要です。腸の中が空になっていないと、内視鏡を大腸の奥に進めることは難しくなります。腸の中は光が入らないので、真っ暗です。その真っ暗な腸の中で、内視鏡は先端から光を照射し、腸の壁で反射した光を先端で見る構造です。ですから、便などが先端に付着すると真っ暗闇となり何も見えません※1。つまり、前処置なしで大腸内視鏡を挿入するのは困難です。

しかし、前処置で大腸の中がきれいであっても、内視鏡が確実に挿入できる訳ではありません。

図10で示すように大腸は上腹部までお腹の中で広い範囲を走行していますが、実は膜に付着してぶら下がっています。この膜を腸間膜といい、図11に橙色で腸間膜を示します。S状結腸と横行結腸に付着する膜は長く、腸がぶらりぶらりと動く構造となっています※2。この二か所の自由に動く大腸部分が内視鏡の挿入を困難にする主な原因です

大腸内視鏡を肛門から入れてゆくと、通常S状結腸で図12のようなループを形成します※3。この状態から内視鏡を押し込んでも黒矢印で示すように腸が伸びてループが拡大し、必ずしも奥に進んではいきません。大腸は引き伸ばされ、かなり強い痛みが出ます。腸がかなり伸ばされた状態となって(患者様はかなり痛い状態となって)内視鏡の先端が奥に進み始めることになります。痛みで大腸がきつく収縮して締まってしまった場合には、内視鏡が全く進まなくなり検査を断念することになります※4。

医師としては、『内視鏡が奥まで入らないので大腸癌があるのか、ないのか分かりません』では済まされないため、患者様が痛がっても何とか検査を進める傾向にあります。

一方、患者様の側は、検査で痛い思いを経験してしまうと「大腸検査は二度としない」、「大腸癌は怖いけれど、大腸検査はもっと怖い」と検査を拒否・躊躇されるようになります。そのような患者様に痛くないように検査すると約束し、そして検査を痛みなく無事に終えても、痛くなかった検査のことは残らず、最初の検査で痛かったことが脳裏にきつく刻まれてしまっているようです。ちなみに大腸の検査には大腸にバリウムを入れて診断するレントゲン検査(注腸検査)もありますが、最終的な診断には大腸内視鏡が必要です。

大腸内視鏡に限らず、胃内視鏡においても、検査に対する嫌悪や恐怖心のため病気の発見が遅れることになってはいけない。できるだけ楽な検査をするように念じております。

  • ※1: 大腸の壁は薄く、無理やり内視鏡を入れてゆくと腸が破れる危険があります。
  • ※2: 結腸は大腸と同じ意味ですが、使い分けがあり横行結腸を横行大腸とは呼びません。
  • ※3: S状結腸では通常2種類のループができますが、実際にはループの解除が容易な図12の形となるように内視鏡を意図的に操作しています。
  • ※4: 大腸の壁は薄いため、強い痛みが出る状態は腸が破れる危険性があります。筆者の経験では、この状態になってから痛み止めを注射しても通常は改善しません。

図10

図11

図12

大腸内視鏡の挿入(えっと驚く実際のビデオ)

痛くない大腸内視鏡検査のためには、大腸をアコーディオンのように折りたたみながら入れてゆく必要があります。内視鏡を進めては大腸を短く折りたたむわけです。しかし、内視鏡を進める際には、軽く痛むことがあります。

痛みの感じ方には個人差があるのですが、徐々に痛みに敏感になり操作が難しくなります。当院では胃カメラの項(楽な内視鏡検査)で説明したオピスタンという注射薬を使用します※5。

この薬は、腸の蠕動を弱めると同時に痛みを軽くする作用もあります。通常はこのオピスタンと眠り薬を注射して行います。患者様は会話できるけれども、半分寝ているといった状態で検査を行うことになり、患者様も検査医もストレスなく検査できます。

さて、大腸内視鏡をS状結腸まで挿入し、ループが形成されたならば早期にループを解除します。図13のように助手が腹壁から手のひらを使って内視鏡を押さえ、同時に内視鏡医が内視鏡を回転させながら引き抜きます。これによりS状結腸は直線化し、同時に引き抜いているにもかかわらず内視鏡の先端は奥に進みます(図14)。

動画1で提示するケースは、S状結腸が長いためループの解除が難しいケースです。内視鏡の先端を横行結腸まで進め、そこで内視鏡が抜けないように先端を屈曲部分にひっかけて保持して、回転しながら引き抜きループを解除しています(図15。動画1)。ループの解除の際には内視鏡を50cmほど回転しながら引き抜いております。なお、動画は左側臥位(左側を下とした横向き)で撮影しており、そのため図14のシェーマとは内視鏡の向きが異なっております※6。

動画を見て、お腹の中でS状結腸が自由に動くことに驚かれたと思います。動画は側面像でループを前後方向に見たものであり、正面像を見るともっと大きなダイナミックな動きになります。また、ループを解除するとS状結腸が相当短く折りたたまれたこともお分かりいただけると思います。横行結腸から上行結腸に内視鏡を進める際にも、同様に横行結腸にループやたるみができます。この際も同様に、内視鏡の回転、助手の補助、体の向きを変えて(体位変換)内視鏡を進めてゆきます。

なお、オピスタンは肝臓で分解される注射薬で、お酒に強い人、弱い人があるように、人により効き目に個人差があります。内視鏡の操作の難しさにも個人差があり、年齢、性別等を考慮して薬の投与量を変えております。ベストの投与量で検査ができたと思われるケースでは、検査の終了直後に患者様が、「あれ、検査はもう終わったのですか?いつの間に検査したのですか?」とおっしゃるケースと考えています。

痛くない大腸内視鏡検査をすることが、安全であり、患者様に喜ばれ、検査医にとってもストレスにならないものなのです。

  • ※5: 大腸内視鏡では、痛みをしっかりコントロールする必要があること、恥ずかしさといった精神的なストレスも多いため、通常オピスタンの使用量は上部内視鏡時に比べ多くなります。
  • ※6: このケースでは幸いなことにループが形成された時点でも患者様は全く痛みを訴えられませんでした。S状結腸が長いためそれほど引き伸ばしていないものと考えます。

図13

図14

図15

動画1

強調画像モードとは(i-scan)

強調画像による内視鏡検査は以前より開発され臨床で使用されておりますが、画面が暗いため拡大した状態でないと病変を見つけにくく、スクリーニングには適していませんでした。

今回導入した強調画像モード(i-scan ※1)はスクリーニング検査に適したモードで、これを用いた内視鏡の映像を紹介します。図1の矢印は通常の胃内視鏡の胃のポリープ(組織学的には過形成ポリープという良性のポリープ)の写真です。図2の写真は血流の多い部位を検出する画像処理モード(TEg)の写真です※2。画像処理によりポリープ部分は周囲より赤さが際立ち、通常画像よりもポリープとその境界が見つけやすくなっているのがお分かりいただけると思います。

図3は胃の前庭部(胃の出口近く)を見た胃カメラの写真で、二ヶ所あるビラン(小さな潰瘍)部分を○で囲って示します。写真下方のビランは良性ですが、矢印で示した写真上部の5mm程度のビランは早期癌です。図4にi-scanで癌検出モード(OE-1)の癌の部分を拡大した写真を示します。写真右下に斜線で示す部分が癌部分と考えられます(※3)。

  • ※1: i-scanとはPENTAX社製の強調画像モードの総称で、SE、CE、TE(TEe・TEg)、OE(OE-1,OE-2)の種類があります。
  • ※2: 図2でポリープ部分は赤い色調に強調表示されています。なお、ポリ-プの上部には血液が付着しています。写真下の棒状のものは、組織をつまむ鉗子です。
  • ※3: 本例は癌診断確定後に、他院で内視鏡治療を依頼しております。

図1

図2

図3

図4

経鼻内視鏡について

経鼻内視鏡は鼻から入れる胃カメラで、直径5mm位の細い内視鏡を使います。鼻から入れるため、「えづき(嘔吐反射)」が出にくい検査方法です。図5の上段は通常の上部内視鏡(胃カメラ)で、下段は経鼻用の細口径内視鏡です。通常の胃カメラに比べ、細口径内視鏡はさらに細くなっております。

しかしながら、細いとはいえ誰もが検査を受けられるわけではありません。鼻の内腔が狭い人(鼻の広さは、外見の鼻の大きさでは予測できません)、鼻に炎症や腫瘍がある方では検査はできません。鼻腔が検査可能な広さであっても、5%の患者様、つまり20人に1人は鼻血が出ることがあります。

検査の前には通常プリビナ(ナファゾリン硝酸塩)という薬を鼻の中に注入します。これは鼻粘膜の血管を収縮させ鼻を広げる点鼻薬です。しかし、狭心症や高血圧の方では使いにくい薬です。

経鼻内視鏡検査は、定期には行っておりませんが、希望者される方がおられれば個別に対処しております。

図5

消化器の外科手術に関して

1.基本的な外科のスタンス

当院では、通常の 開腹手術のみならず、 腹腔鏡手術も行っております。しかし、基本は循環器の病院であり、消化器のスタッフも少ないため全ての消化器疾患を当院で手術することは困難です。患者様にとっても、消化器疾患のスタッフがそろった病院で手術を行う方が有利と考えます。そこで手術の適応となる場合、病気の程度と循環器疾患により、 (患者様の希望もふまえて)できる限り適切と思われる病院に紹介しております。勿論、状況に応じ、当院で手術することもあります。

当院で行っている全身麻酔による年間手術症例数は約40例です。

2.循環器疾患と消化器外科手術

循環器に問題を抱えた患者様の消化器外科の手術を施行する上で問題となるポイントは主に3点です。① 血をサラサラにする薬の服用、② ペースメーカーや 植込み式徐細動器(植込み型の電気ショックの器械)が体内にある場合。③ 心臓のポンプ機能が低下している場合(低心機能)であります。①~③が重複するほど厄介です。

手術の際には血をサラサラにする薬の効果が切れていないと手術はできません。血をサラサラにする内服薬は中止してもすぐに効果が切れないため、数日前から薬を止めることになります。血が固まりやすくなるため、手術の前後には血をサラサラにする特殊な点滴を投与するなどの工夫が必要です。血液が固まることによる合併症を恐れるあまり、手術後早い時期に血をサラサラにしてしまうと、血が止まらなくなり止血手術が必要となることがあります。血をサラサラにする薬と外科手術、特に消化器外科手術は相性がよくありません。

ペースメーカーや植込み式徐細動器が体内にある状態では、手術中の電気メスの使用が問題となります。現在の手術では電気メスは必須ですが、電気メスを使用すると体内に電流が流れます。この電流を心臓の収縮による電流(心電図)と誤って判断し、ペースメーカー機能が停止する可能性があります。あるいは、これを重症不整脈と誤感知して心臓に電気ショックを与える恐れがあります。このため、手術前に、あるいは手術中に器械の設定・機能を変更する必要があります。

最も難しい問題は③です。通常消化器手術の後は、絶食の時期があります。この期間には、点滴で水分補給と栄養補給を行います。一般に消化器外科手術後は、全身の循環をよくするため、点滴は多めに行なうのが普通です。

点滴が多めでも、心臓の機能が正常であれば全く問題ありません。しかし、低心機能の患者様では水分が入りすぎると、簡単に心不全を起してしまい、手術部位の破綻が起こりやすくなります。逆に、水分投与が少なすぎると、循環不全や腎機能低下を来してしまいます。低心機能の患者様は点滴の投与量の許容範囲がせまいため、点滴投与量をコントロールし、かつ充分な栄養を投与することはかなり面倒です。

手術手技の面から考えてみましょう。例えば、大腸を取る(切除する)といっても単に取るだけでなく、残りの大腸同士をつなぐ手技が必要です。残った腸と腸を完璧につないだとしても手術は成功ではなく、つないだ腸同士が一つの組織のように引っ付いて初めて成功です。そのためには手術部位に充分な栄養素と酸素が運ばれなければなりません。栄養と酸素を運ぶのが心臓のポンプ機能であり、ポンプ機能が低下しているとつないだ部位が破綻しやすく、また回復が遅くなります。

つないだ部位が早期に破綻した場合には腸液や便が腹腔内にもれ、腹膜炎や手術創の化膿等を来たし、敗血症となり重篤な全身の消耗状態となります。ポンプ機能が悪い場合、この状態からの回復は更に厳しくなります。

長い手術時間も循環の面から考えると不利となるため、慎重かつ手際の良い手術が必要となります。循環器疾患を抱えた患者様は、消化器の内科のみならず消化器外科医にとっても厄介な患者様である訳です。

尚、心不全や手術目的で入院され、体力・筋力の低下から食事摂取(嚥下力)が低下された患者様も居られ、かかる患者様に対して、嚥下のトレーニングと体力(栄養状態)の向上の目的で、内視鏡下の胃瘻の造設手術(PEG)も行なっております。

消化器の病気に関して

当科を受診される患者様は、循環器疾患を持っておられる方が大半です。しかし、循環器とは無縁の患者様もいらっしゃいます。全ての手術・処置ができるわけではありませんが、ご相談にはのれるものと思います。

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